第4話、 プーカの正体

次の日、 誠十郎(走谷)は目覚まし時計が鳴る30秒前に目を開いた。 彼はいつもアラームの30秒前に起きる。 小学5年生から続いている習慣だ。 それも親の言いつけ通りだが誠十郎も納得していた。 そして時計の目覚まし機能を止めると起き上がり着替えた。 
まだ6時だ。 眠けまなこでファルディアは誠十郎を目で追う。 
階下では焼き魚の匂いが充満して部屋の外まで漂っている。 誠十郎の母親が台所で忙しく動き父親は新聞を読んでいた。 丁度、 女性の社会進出における日本の進み具合の遅さを問題提起している。 うちの妻は社会進出を望んでいるのであろうか?有能な女性が出世することには喜んでいるようだが、しかし女社長の存在には何かとケチをつけている。誠十郎は「おはようございます」と2人に言いながら椅子に座った。 重厚な椅子なので片手では引けない。 両手で慎重に持ち上げながら椅子を引いた。 誠十郎の父は雇われ社長で誠十郎の家は金持ちの部類に入るだろう。 だから高級家具に囲まれている。 しかしお小遣いは同級生と同程度の金額しか貰えなかった。 誠十郎はお小遣い日前にだけ「少し足りないな」不満に思う。 両親の教育方針なのだ。 小さい頃から金銭感覚を身につけさせようとしている。両親共に「おはよう」と返事した。

父は新聞を置き誠十郎に
「昨日の塾のテストはどうだった?」と笑顔で言った。
誠十郎が返事をする前にファルディアが言った。
「知るか!ボケ!と言え」
プーカは?見当たらない。まだ寝てんのか?と考えたが玄関がある方の扉からプーカがすり抜け入ってきた。
「お前!何やってたんだよ! 担当の人間から離れんなよ!」
ファルディアは思わず怒鳴った。
「すみません……」プーカがうつむきながら小声で言った。「と言え」と続けて誠十郎に促した。
「?」
ファルディアは誠十郎を見た。

誠十郎は一瞬、 迷った。 昨日のテストには自信がなかったからだ。 反抗的な態度で誤魔化すか。それとも謝って正直に言うか。
誠十郎は別の選択をした。
伏せてた顔を上げ、眼鏡の中央を抑えて位置を直しながら言った。
「よ。 良かったよ。 良い点取れるんじゃないかなー」
誠十郎の母が朝食をテーブルに並べながら
「誠十郎は大丈夫だよ。 ちゃんと勉強してるもんね」
と父の前に焼き魚と大根おろしの乗った皿を置いた。
「そうだな。 誠十郎は良い子だからな。 両親に似たからだろう。 良い意味で親の顔が見たいなー」
誠十郎の母も父と共にその冗談に笑いながら食事の用意を終えた。
3人で朝食を囲む中、ファルディアは3人を見ていた。見続けた。

朝食を終えた誠十郎は、食器を台所の流しの横にある水を張ったボウルに入れると、2階へ戻った。
「しっかりと朝の勉強をするんだぞ。」
誠十郎の父は微笑みながら誠十郎の背中を見送った。

「なんとなく。 分かったよ」
ファルディアは誠十郎の勉強している後ろでプーカに言った。プーカは誠十郎のベッドの下にあった本を熱心に読んでいる。
「てめぇー!ふざけてんのは何か意味があるのか。 何とか言え!」
ファルディアはプーカを声を荒げた。

その次の日、 誠十郎は中学校の教室に入った。 皆がそれぞれグループを作り騒いでいる。 誠十郎は自分の席に着くと隣の席の男子に視線を向けた。 熱心に勉強をしている。

「バンド組まないか?」と言え。とプーカが促した。
ファルディアは小声で
「勉強した方が良いんじゃねーか?」
とつい言ってしまった。
⚡ ドーーン!⚡ 雷がファルディアに落ちた。 良い言葉を投げかけてしまったのだ。
後悔、 後に立つ。

色とりどりの花が咲き乱れ小川が流れ小鳥のさえずりがする。 緑深き丘陵に静かに佇む苔屋根の家の中、 豪華絢爛な家具、 絵画や彫刻が飾られ床には毛皮が敷かれていた。 ファルディアは天界に居る。 プーカもだ。 そして前にはダグザが立っていた。 見下ろしている。 ファルディアは震えながら目だけ見上げて顔はやや下を向く。
そこでプーカが怒鳴った。
「計画通りだったろうが!」
ファルディアは驚きダグザの存在は忘れ、 プーカをまじまじと見た。(やはり、 何かある…計画とは……)。
それに対してダグザは怒る。
「何だ。 計画って?!ふざけるな‼ 」
・・・ アレ?
ファルディアは再びダグザを見上げた。 いつもは顔色を変えずに怒るのだが今日は顔が真っ赤だ。 プーカがダグザを指差して笑い始めた。
「また顔が赤くなった。これが見たかったんだよなー笑」
ファルディアの方は顔が青くなっている。 下半分は白くなるほどだ。小一時間、 説教を喰らうと下界へと帰された。
ファルディアは (へ?こんだけ?) と思った。 良い言葉を投げかけた罪でダグザに怒られたのは初めてだった。
プーカはニヤニヤしながら
「ダグザ様の怒った顔、 おっもしれーだろー」
ファルディアは授業を受ける誠十郎の前で立ち尽くしていた。
「騙されてやんのー!」「ファルディアも怒られた♪」
「悪魔が怒られるの。 初めて見たよー!」
ファルディアの周りを踊りながら楽しそうなプーカだった。

優しく教育熱心な両親のもとで素直に育った誠十郎は勉強が得意だ。

やれやれ失敗か。 見栄など必要ないだろう。 天でダグザは再び嘆息した。

 第5話に続く


第1話「天使プーカとの出会い」
https://kurokoda64213.com/archives/25744634.html

第2話「天使の夜道」
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第3話「スパイする天使」
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第5話「逢引き」
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第6話「優しい誠十郎」
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第7話「スクールヴァルナの誠十郎」
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第8話「誠十郎、精一杯の切実」
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第9話「誠十郎、夜に駆けなさい」
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第10話「恋と誠」

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第11話「思考を抜けるとそこは雪国だった」

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