第5話、 逢引き
夏休みが終わり、 秋は未だに手ぐすねさえもしてくれない。 そんな暑さを感じる季節だった。 今年、 この学校では文化祭は9月の中盤に行われた。 熱いだけの文化祭だったが保護者達で盛況だった。
文化祭の数日後の放課後、 誠十郎は生徒会室に居た。 1年生の誠十郎は書記だ。 昔は教室だったであろう生徒会室で、 机をコの字に並べてそれぞれの役の人が椅子に座る。 教室内は冷暖房完備で涼しいそよ風が頬に当たる。
生徒会長の名前は豪田剛子。美人で成績優秀、 そしてスポーツも万能だ。 バレー部のエースであり友人も多く誠十郎の憧れの人だ。 先日の文化祭では剛子リサイタルと称して歌を歌った。 彼女の美声に皆惹かれ、観覧は自由だったものの、体育館はすぐに満員となり、暑さにも関わらず全校生徒が剛子の歌声に聴き惚れた。 来月やる運動会ではリレーのアンカーもつとめる。
彼女の横の席で誠十郎は議事録をつくっていた。 時々、 剛子の横顔をチラチラと見ながら誠十郎は書記の仕事を続けた。 先輩は、 今日も完璧だった。 文化祭のリサイタルの歌声が、生徒会室で優雅に本を読む姿が脳裏をよぎる。 本当に、こんなに優雅で多才な人がいるなんて、と誠十郎は改めて思う。 今日の議題は来月の運動会だ。
ファルディアはささやく。
「書記の仕事なんて適当に済ませちまえ!なんなら書くなよ」
プーカ。
「生徒会長の顔を見るくらいなら時計を凝視しろ!皆が気を遣って早く終わるぞ」
誠十郎は一瞬、 面倒な議事録を書くのをやめたかった。 早く終わって欲しいとも思う。でも書く!憧れの先輩の前だからではない。 書記の仕事は自分から立候補した。 やると決めたからには…やるのだ!誠十郎は議事録を真面目に書き続けた。 剛子を時々見ながらだ。
会議が終わると生徒会長と誠十郎が残った。 誠十郎は議事録の整理をし生徒会長は何やら本を読んでいる。 生徒会長は時々時計を目にし、 そして誠十郎を見た。 本にはあまり集中していないようだ。
しばらくすると、 ドンっと大きなドアを開ける音が響く。
「会長、 いるかー」
と男子の野太い声と共に身長が180㎝は超えている不良が生徒会室に入って来た。 金髪で髪は逆立っている。 白のワイシャツのボタンは全部外れていて、 中の紺色のTシャツには卑猥な英語がプリントされたTシャツが目に入る。
誠十郎はその姿を見ると、すぐに目を議事録に落とした。 目が合えば殴られるかも知れないとでも思ったのであろうか?誠十郎の額からは冷や汗が浮かんでいる。 議事録を書くスピードが上がった。
ファルディアが言う
「殴っちまえ!あんなの見掛け倒しだ。 勝てば生徒会長は誠十郎を見直して惚れてくれるぞ」
悪魔らしい誘惑だ。
プーカ。
「ルパンのテーマ曲を歌いながら不良の入ってきたドアから出て行け!」
ファルディアは黙って怒りの表情を浮かべた。しかし、 誠十郎は議事録をカバンにしまうと剛子に頬を赤らめ、 ぎこちないウインクをしながら合図を送って帰った。 不良の横をルパンのテーマを口ずさみながら廊下を歩き去った。
「???」
ファルディアは驚いた。 曲名まで当てるなんて…
「プーカ。 やはりお前…何か知っているのだな?」
ファルディアはプーカを睨む。 プーカは素知らぬ顔で誠十郎の後をつけず生徒会室に居たままだ。 ファルディアは誠十郎の後を追おうとするがプーカを見て
「ここで何かあるのか?」
焦った声でプーカ、 生徒会長剛子、 不良を見る。 プーカは厳かに、 ゆっくりと言った。
「あぁ、 あるんじゃ。 ないかな?」
椅子に座って、 足を組み、 肘をついて、 剛子と不良を見続ける。 ファルディアは唾を飲み込み、 これから起こることを見過ごして良いのかと迷った。
それから数十秒後、 剛子は何も言わず不良の胸に飛び込む。 幸せそうな2人の顔。 ファルディアはあっけにとられていた。プーカはハグし合う2人を直近10㎝の所へ行きニヤニヤと凝視する。 誠十郎は気を利かせて議事録を早く書き終わらせ、 ウインクで気を利かせたのだ。
ファルディアはその場にへたり込み
「え~~~………」
と情けない声を漏らした。今夜はルパンの映画がテレビで放映される。
ファルディアは誠十郎がそれを新聞のテレビ欄で確認していたのを思い出した。
「真っ赤なバラは~お前のくちびる~…♪」誠十郎はスキップしそうな足取りで楽しそうに家路についた憧れの先輩たちが仲良くて嬉しいな♬
初志貫徹、 本当に大事だなあ。 俺もしなきゃな。 ダグザは天で静かに反省した。
第6話に続く
第1話「天使プーカとの出会い」
https://kurokoda64213.com/archives/25744634.html
第2話「天使の夜道」
https://kurokoda64213.com/archives/25767152.html
第3話「スパイする天使」
https://kurokoda64213.com/archives/25768305.html
第4話「プーカの正体」
https://kurokoda64213.com/archives/25843251.html
第6話「優しい誠十郎」
https://kurokoda64213.com/archives/25987840.html
第7話「スクールヴァルナの誠十郎」
https://kurokoda64213.com/archives/26043357.html
第8話「誠十郎、精一杯の切実」
https://kurokoda64213.com/archives/26206847.html
第9話「誠十郎、夜に駆けなさい」
https://kurokoda64213.com/archives/26244629.html

夏休みが終わり、 秋は未だに手ぐすねさえもしてくれない。 そんな暑さを感じる季節だった。 今年、 この学校では文化祭は9月の中盤に行われた。 熱いだけの文化祭だったが保護者達で盛況だった。
文化祭の数日後の放課後、 誠十郎は生徒会室に居た。 1年生の誠十郎は書記だ。 昔は教室だったであろう生徒会室で、 机をコの字に並べてそれぞれの役の人が椅子に座る。 教室内は冷暖房完備で涼しいそよ風が頬に当たる。
生徒会長の名前は豪田剛子。美人で成績優秀、 そしてスポーツも万能だ。 バレー部のエースであり友人も多く誠十郎の憧れの人だ。 先日の文化祭では剛子リサイタルと称して歌を歌った。 彼女の美声に皆惹かれ、観覧は自由だったものの、体育館はすぐに満員となり、暑さにも関わらず全校生徒が剛子の歌声に聴き惚れた。 来月やる運動会ではリレーのアンカーもつとめる。
彼女の横の席で誠十郎は議事録をつくっていた。 時々、 剛子の横顔をチラチラと見ながら誠十郎は書記の仕事を続けた。 先輩は、 今日も完璧だった。 文化祭のリサイタルの歌声が、生徒会室で優雅に本を読む姿が脳裏をよぎる。 本当に、こんなに優雅で多才な人がいるなんて、と誠十郎は改めて思う。 今日の議題は来月の運動会だ。
ファルディアはささやく。
「書記の仕事なんて適当に済ませちまえ!なんなら書くなよ」
プーカ。
「生徒会長の顔を見るくらいなら時計を凝視しろ!皆が気を遣って早く終わるぞ」
誠十郎は一瞬、 面倒な議事録を書くのをやめたかった。 早く終わって欲しいとも思う。でも書く!憧れの先輩の前だからではない。 書記の仕事は自分から立候補した。 やると決めたからには…やるのだ!誠十郎は議事録を真面目に書き続けた。 剛子を時々見ながらだ。
会議が終わると生徒会長と誠十郎が残った。 誠十郎は議事録の整理をし生徒会長は何やら本を読んでいる。 生徒会長は時々時計を目にし、 そして誠十郎を見た。 本にはあまり集中していないようだ。
しばらくすると、 ドンっと大きなドアを開ける音が響く。
「会長、 いるかー」
と男子の野太い声と共に身長が180㎝は超えている不良が生徒会室に入って来た。 金髪で髪は逆立っている。 白のワイシャツのボタンは全部外れていて、 中の紺色のTシャツには卑猥な英語がプリントされたTシャツが目に入る。
誠十郎はその姿を見ると、すぐに目を議事録に落とした。 目が合えば殴られるかも知れないとでも思ったのであろうか?誠十郎の額からは冷や汗が浮かんでいる。 議事録を書くスピードが上がった。
ファルディアが言う
「殴っちまえ!あんなの見掛け倒しだ。 勝てば生徒会長は誠十郎を見直して惚れてくれるぞ」
悪魔らしい誘惑だ。
プーカ。
「ルパンのテーマ曲を歌いながら不良の入ってきたドアから出て行け!」
ファルディアは黙って怒りの表情を浮かべた。しかし、 誠十郎は議事録をカバンにしまうと剛子に頬を赤らめ、 ぎこちないウインクをしながら合図を送って帰った。 不良の横をルパンのテーマを口ずさみながら廊下を歩き去った。
「???」
ファルディアは驚いた。 曲名まで当てるなんて…
「プーカ。 やはりお前…何か知っているのだな?」
ファルディアはプーカを睨む。 プーカは素知らぬ顔で誠十郎の後をつけず生徒会室に居たままだ。 ファルディアは誠十郎の後を追おうとするがプーカを見て
「ここで何かあるのか?」
焦った声でプーカ、 生徒会長剛子、 不良を見る。 プーカは厳かに、 ゆっくりと言った。
「あぁ、 あるんじゃ。 ないかな?」
椅子に座って、 足を組み、 肘をついて、 剛子と不良を見続ける。 ファルディアは唾を飲み込み、 これから起こることを見過ごして良いのかと迷った。
それから数十秒後、 剛子は何も言わず不良の胸に飛び込む。 幸せそうな2人の顔。 ファルディアはあっけにとられていた。プーカはハグし合う2人を直近10㎝の所へ行きニヤニヤと凝視する。 誠十郎は気を利かせて議事録を早く書き終わらせ、 ウインクで気を利かせたのだ。
ファルディアはその場にへたり込み
「え~~~………」
と情けない声を漏らした。今夜はルパンの映画がテレビで放映される。
ファルディアは誠十郎がそれを新聞のテレビ欄で確認していたのを思い出した。
「真っ赤なバラは~お前のくちびる~…♪」誠十郎はスキップしそうな足取りで楽しそうに家路についた憧れの先輩たちが仲良くて嬉しいな♬
初志貫徹、 本当に大事だなあ。 俺もしなきゃな。 ダグザは天で静かに反省した。
第6話に続く
第1話「天使プーカとの出会い」
https://kurokoda64213.com/archives/25744634.html
第2話「天使の夜道」
https://kurokoda64213.com/archives/25767152.html
第3話「スパイする天使」
https://kurokoda64213.com/archives/25768305.html
第4話「プーカの正体」
https://kurokoda64213.com/archives/25843251.html
第6話「優しい誠十郎」
https://kurokoda64213.com/archives/25987840.html
第7話「スクールヴァルナの誠十郎」
https://kurokoda64213.com/archives/26043357.html
第8話「誠十郎、精一杯の切実」
https://kurokoda64213.com/archives/26206847.html
第9話「誠十郎、夜に駆けなさい」
https://kurokoda64213.com/archives/26244629.html
第10話「恋と誠」
https://kurokoda64213.com/archives/26302893.html
第11話「思考を抜けるとそこは雪国だった」
https://kurokoda64213.com/archives/26420719.html

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