第6話、 優しい誠十郎

誠十郎はルパンのテーマを口ずさみながら家路についていた。 夕日が香るその日は秋風が心地よい。 真夏とは違い夕方は涼しかった。誠十郎は小指ほどの石を前に蹴りながら歩いていた。 小石は電柱に当たったり前に飛びすぎたりとなかなかコントロールが効かない。駅近くの少し路地に入ったところにあるいつもは常連客で賑わうラーメン屋だ。 その前で油と醤油が交じり合った匂いに気を取られると小石蹴り遊びは終わった。
前方を見ると男性が何やら下を向いて探している。 アチコチ探しては溜息をつく。 何か大事な物を探している様だ。 面の前の背中は誠十郎の父と違って横に大きい。
悪魔ファルディアはすました顔で言った。
「気にすんな。 こんな奴。 放っとけ」
天使プーカはニヤニヤといつもの仕事放棄。
「頑張れー!って応援してやれ。 ヤツはやる気になるぞ」
ファルディアは再び怒る
「だからー。 ちゃんとやれよ!」

誠十郎は一瞬、 そのまま通り過ぎようとした。 いや心の中でだけ応援でもしようか…でも困っている人を助けなきゃ。 それが周り回って自分に返って来るってYouTube動画でも言ってた…いや、 ただ彼の笑顔が見たい。 そんな理由でも良いじゃないか。

誠十郎はその男性に話しかけ一緒に男性の探しているキーホルダーを見つける為にかがんでその辺りを手探りした。
ファルディア
「誠十郎って、 良いヤツだよな。 善人ってのはこういう奴を言うんだ」
「えーつまんねーヤツじゃん。 だから悪人だよ」
プーカはファルディアに中指を立てた。
「はー」
怒りもせずにファルディアは溜息をつく。
「これですか?」
誠十郎は男性に赤いキーホルダーを手に持って見せた。この太った男性と誠十郎と同じ年くらいの女の子の写真が貼ってある。 プリクラとかいうものだ。 一緒に写るのは恥ずかしかったろうな、 そう考える必要もないほど、写真の中の男性と女の子の顔は満面の笑顔だ。
男性は感謝の言葉を述べ
「ジュースでも奢るよ」
と近くの自販機を指差した。 赤い自動販売機で、 まだ「あたたかい」コーヒーが売られている。
2人で自販機の前に行き男性はお金を投入して言った。
「どれでも良いぞ」
男性の言葉に誠十郎は笑顔で自販機のボタンを押す。
ファルディアは
「一番高いヤツを買っちまえ!」
と露悪趣味であろう言葉を放つ。
プーカは
「怪しいぞ」
と顎に手を当てた。 ファルディアはプーカを見る。 そして男性を注視した。
「何が怪しいんだ?普通のサラリーマンじゃねーか?」
プーカは自販機を指差し
「この『あたたか~い』飲料は炭酸だぞ。 それでキーホルダーには、女の子と一緒に写ったプリクラが付いてた」
ファルディアは男性の顔を睨む。 太った男には少し異様な雰囲気を感じさせるところが…
「もしや…」
プーカは名探偵ぶった表情で真剣な目を男性に向けた。
「そうだ。 この男の娘だろう」
太った男性に感じた異常性は錯覚だったようだ。 ファルディアは怒った。
「どこが怪しいんだよ!それなら普通じゃねーか!」

男性と別れて誠十郎はジュースを飲みながら歩き始めた。 その足取りは軽快だった。 ジュースも美味しくて良い気分だ。
「ん?ちゃんと別れたぞ?誘拐じゃねーだろ」
このファルディアの声は無視してプーカは懐から天界のコインを出すと自販機にコインを投入しボタンを押した。ガタン。
ジュースのプルトップを開け少し飲む。
「まっじ。 あったかい炭酸だ。 やっぱりな」

「テメー。 誠十郎と離れちまっただろ!話を真剣に聞いてやったのに・・・」
ファルディアは騙された恥ずかしさと怒りで顔が真っ赤だ。
「???…だから、 怪しいどころか本当に温かい炭酸だっただろう?飲むか?」
プーカは不思議そうな顔をしてファルディアにジュースを差し出した。
(くそー!まーた、 だまされた。もう二度とだまされないと決めたのに・・・) ファルディアは心の中で叫んだ

…ああ、 もう、 あんなピュアには、 戻れぬか。
なんか、 4人で1番の良いヤツが誠十郎なんだよなー。
ダグザは評価に自分も加えたようで自省を込めてため息をついた
 第7話に続く

第1話「天使プーカとの出会い」
https://kurokoda64213.com/archives/25744634.html

第2話「天使の夜道」
https://kurokoda64213.com/archives/25767152.html

第3話「スパイする天使」
https://kurokoda64213.com/archives/25768305.html

第4話「プーカの正体」
https://kurokoda64213.com/archives/25843251.html

第5話「逢引き」
https://kurokoda64213.com/archives/25855711.html

第7話「スクールヴァルナの誠十郎」
https://kurokoda64213.com/archives/26043357.html

第8話「誠十郎、精一杯の切実」
https://kurokoda64213.com/archives/26206847.html

第9話「誠十郎、夜に駆けなさい」
https://kurokoda64213.com/archives/26244629.html


第10話「恋と誠」

https://kurokoda64213.com/archives/26302893.html


第11話「思考を抜けるとそこは雪国だった」

https://kurokoda64213.com/archives/26420719.html


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