第7話、 スクールヴァルナの誠十郎
誠十郎は中学3年生になっていた。 梅雨に入る前の晴天の続く過ごしやすいこの季節、 誠十郎は学ランは羽織らずにワイシャツだけだ。 高校受験の為に他の生徒よりも早くに準備し勉強に励んでいる。今日はそろばん塾だ。 「数学のセンスを磨く為だよ」母親に言われた言葉がそのまま心に響く。 そして学業成績は常に学年トップテンに入る。 その代わりに体育の授業はいつも通信簿で10段階の(3)ばかりだ。 出席をし続付けたのでそれが評価されたのであろう。 クラスでは『ガリ勉グループ』に入っていると言われていた。 彼はそれで満足だ。 将来を考えればそれが一番良いと思っていた。 今は勉強を頑張れば大人になってから幸せになれる。 そんな事を両親は言っていたのだ。 疑問を抱きつつそれに従っていた。
下校時、 下駄箱で靴を履こうと地面に靴を落とすとクラスの一軍である骨川君が声をかけてきた。
「何?今日も帰ったらお勉強ですかー?」
誠十郎は羨望の気持ちで骨川君を見る。 背は高いし、 顔の造作も整っている、 なにより明るい性格で皆に好かれている。 骨川君のようになりたかった。
「いや、 そろばん塾に行く日だよ。 親がこれだけは習っておけだって。 骨川君は?」
誠十郎は骨川君と話せる喜びを隠して平静を装って応える。 だから骨川君の目を真っ直ぐに見つめた。 視線は少し上になる。
「フン。 俺は部活だよ。 今年こそ県大会にでるんだ!」
横を向きながら骨川君は吐き捨てるように言った。 誠十郎は骨川君の不機嫌を意に介さずに身近で明確な目標を持つ骨川君が羨ましいと思った。
「ふ~ん。 良いね」
何気に呟く誠十郎。
「は?バカにしてんのか?」
骨川君は誠十郎を睨む。
「???」
誠十郎は混乱していた。 羨ましい骨川君。 バカにする要素は1つとしてない。 本当に良い目標だ。 羨ましいとさえ思ったのだ…アレ?骨川君は冗談を言っている?心の奥底でそんな声も小さく聞こえる。 骨川君は不機嫌な声を隠さずに続ける。
「俺はお前みたいに勉強が出来るわけじゃねーからな。 金がねーから塾にも通えねーし・・・」
熱くなった自分を恥じたのか。 骨川君は下を向きながら靴をそっと地面に置く。
そこでファルディアが言った。
「惨めだなー。 親のせいにするなよ。 親ガチャ失敗したのか?と言え」
プーカは厳かに言った。
「ラーの末裔だからピラミッドを作る夢がある。 と言え」
ファルディアは怒りの表情だ。
誠十郎は、『お金があるかどうかは親次第だ』と考えていた。 ファルディアの思惑とは異なるが自分の努力ではないと伝えたかった。 そしてピラミッドを作る夢があるんだ。 なんて、 骨川君が冗談を
言ってるなら、 こう言えば良いのかな、 と考えた。 が緊張が何も言えなくしていた。
「バカにするなんて…。 ただ、 骨川君が羨ましくて…」
誠十郎は泣きそうな声で言った。
「え?俺が羨ましいの?」
意外な答えに驚いているらしい。 消えそうな声で誠十郎は
「だって…誰とでも仲良くなれるし…皆、 骨川君を尊敬してるし…」
とまるで舞踏会に行く前のシンデレラだ。 継母や義姉たちに何も言えずにいるシンデレラ。
「僕なんて・・・」
靴を履きながら地面へと顔が向く。 骨川君が今回の会話で一番困惑したのはこの瞬間だった。
骨川君は部活へ行き、 誠十郎は帰途につく。
ファルディアは呟いた。
「骨川君は色々と悩んでいるんだな」
プーカもインスタ風に呟く。
「学校の校門で、 黄昏れる悪魔ナウ」
片側の口角を上げながらいやらしい忍び笑いをした。ファルディアは心の中では怒っていたがプーカの行動には何か意味があるはずだ。 とプーカを観察した。 なんにも分からないので見続けた。 いや観察し続けた。プーカは水着姿を好きな男の子に見つめられて恥じらう女の子のように
「なんで、 そんな目で見るの?」
と自分では色っぽいと思える表情で言った。
ファルディアの葛藤は続く…
今回も失敗だな。 どんな時でも自分の言いたいことはちゃんと伝えるべきだ。 プーカとファルディアは言い過ぎだがな。 ダグザは小さく微笑んだ。
第8話に続く
第1話「天使プーカとの出会い」
https://kurokoda64213.com/archives/25744634.html
第2話「天使の夜道」
https://kurokoda64213.com/archives/25767152.html
第3話「スパイする天使」
https://kurokoda64213.com/archives/25768305.html
第4話「プーカの正体」
https://kurokoda64213.com/archives/25843251.html
第5話「逢引き」
https://kurokoda64213.com/archives/25855711.html
第6話「優しい誠十郎」
https://kurokoda64213.com/archives/25987840.html
第8話「誠十郎、精一杯の切実」
https://kurokoda64213.com/archives/26206847.html
第9話「誠十郎、夜に駆けなさい」
https://kurokoda64213.com/archives/26244629.html
第10話「恋と誠」
https://kurokoda64213.com/archives/26302893.html
第11話「思考を抜けるとそこは雪国だった」
https://kurokoda64213.com/archives/26420719.html

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