第8話、 誠十郎の精一杯の切実

今日、 誠十郎は勉強が手につかなかった。 親友の歩とケンカしたのだ。 塾に通う誠十郎はそこに親友がいた。 小中学校で同じクラスになった事は無いが同じ学校に通う歩。 小学5年生から通い始めた塾があり、 そこで出会っていた。 最初の印象は薄かった、 というより存在さえお互い認識していなかった。 しかし中学生になり塾の成績に順位がつくと、 トップを争うのがこの歩だった。 もう1人、 トップを競うライバルはいたがその娘はイケてる女子、 仲よくしたくても相手にされないだろうと諦めていた。 その娘は明るい男子や女子といつも一緒にいる。
2人は好敵手であり親友でもあった。 
兄のいる歩から大人とは何ぞやとも教えられていた。 つまり師でもある。
そんな歩と誠十郎は些細な事がキッカケでケンカした。 テストで歩が1位になった。 しかし誠十郎のテストには採点ミスがあり歩より本当は1点多かったことが判明した。 だから誠十郎は本当の1位は自分だと主張した。 歩は、 「いや発表が全てだ!」と言い張った。 普段から温和な2人なので口喧嘩だ。 次第に口喧嘩はエスカレートし、 最後には別れの挨拶もせずに2人共に走って家路につく。 2人共、 こんな些細な事で喧嘩するのは親友な証だ。 でも大人になれば分かるが「親しき仲にも礼儀あり」この言葉は頭では理解してるが思慮が足りていない。息を切らせて帰宅すると両親への挨拶もおざなりに誠十郎は遅い夕食を済ませ、 塾の宿題に取り組む。

「学校の宿題は、放課後のうちに学校で終わらせてしまえ」そう親に教わっていたので学校の宿題はもう終わっている。 だから残っているのは塾の宿題だけだ。しかし勉強が進まない。
イライラ、 イライラ、 誠十郎は足を貧乏ゆすりしていた。手に持つはずのシャープペンは鼻と上唇の間に挟んで上を向いていた。すぐに、歩の日頃の言動や過去の行動への不満が頭に浮かんできた。 しかも些細な欠点でこれを補っても余りあるほど、普段は歩のことが好きで尊敬している。 だが感情的な思考がそれを忘れさせた。 いつまでも続く嫌悪感。 これは後々、 誠十郎自身に何倍にもなって自分に向けられることとなるだろう。 今日はそこまでは気が回らない。
ファルディアが背後から言った。
「今から走って歩の家に行って歩を殴っちまえ!自分が上とハッキリさせんだ!」
プーカはヘラヘラと笑いながら言った。
「洗面台に行って、 鏡よ鏡、 世界で一番美しいのは誰?と言え」
「だからー!」
ファルディアはもう騙されない。ちゃんとプーカに怒りをぶつけるぞと思った。

誠十郎は一瞬、 歩の家まで歩を殴りに行こうかと考えた。 あうぐに、 そこまでやる必要があるのか?と自省する。

一瞬で冷静になり、 シャープペンを机の上に置き立ち上がって
「頭を冷やすか」と呟くと洗面台へと向かった。
 階段を下りる足音を聞きながらファルディアはプーカを凝視した。プーカは机に向かって一生懸命に何かしてる。 
覗き込むと誠十郎の消しゴムに「豪田剛子」と油性ペンで名前を書いていた。 学校での都市伝説で消しゴムに好きな相手の名前を書く。 そしてその消しゴムを使い切るとその相手と結ばれる。 その話を信じて誠十郎のために書いたのか?それとも自分が剛子と結ばれたいのか?疑問が湧いてくるほどにファルディアは普段のプーカは素行が悪いと思っている。
いや、 そんな事はどうでもいい。
「おっ前、 現実の物に手を加えんじゃねーよ」
ファルディアは怒るというより慌ててプーカに言う、 というより叫んだ。 プーカは消しゴムを上にあげてファルディアから遠ざける。
「大丈夫だって、 これ、 罰則はないんだぞ。 つまり本当はやっても良いんだ」
ファルディアは消しゴムも見ずに肩を落として言った。
「そういうもんじゃないだろう」
弱気に小声だ。

誠十郎が洗面台に向かおうとすると階下の玄関に新しい写真集が置いてあるのが目に入った。 宅配サービス大手に注文したもので、 グラビアアイドル「細田ガラシャ」写真集だ。 誠十郎はこの娘のファンで、普段は漫画の週刊誌を歩に借りて読んでいるが、この娘が巻頭グラビアを飾るときだけは自分で購入していた。ほとんど読み返すことはないのだがなんとなく購入してしまうのだ。 家に置いておくといつの間にか失くなっているがそれにも気づかない。 その細田ガラシャの写真集が目に入った瞬間、歩とのこれまでの思い出が蘇る。
 (いつも漫画を貸してくれるよな)
そう思って誠十郎は呟く。
「謝るか・・・」
洗面台には行かず自分の部屋に戻ると塾の宿題を始める誠十郎であった。

ファルディアは何も言わずにプーカを見つめていた。それに気づいたプーカは
『はら〇いらに5000点』と意味不明な言葉を言うのであった。

誠十郎の得意分野だな。 自制心は…な。 ダグザは寂しそうに呟いた。 第9話に続く

第1話「天使プーカとの出会い」
https://kurokoda64213.com/archives/25744634.html

第2話「天使の夜道」
https://kurokoda64213.com/archives/25767152.html

第3話「スパイする天使」
https://kurokoda64213.com/archives/25768305.html

第4話「プーカの正体」
https://kurokoda64213.com/archives/25843251.html

第5話「逢引き」
https://kurokoda64213.com/archives/25855711.html

第6話「優しい誠十郎」
https://kurokoda64213.com/archives/25987840.html

第7話「スクールヴァルナの誠十郎」
https://kurokoda64213.com/archives/26043357.html


第9話「誠十郎、夜に駆けなさい」
https://kurokoda64213.com/archives/26244629.html


第10話「恋と誠」

https://kurokoda64213.com/archives/26302893.html


第11話「思考を抜けるとそこは雪国だった」

https://kurokoda64213.com/archives/26420719.html


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