第9話、 誠十郎、 夜に駆けなさい
地獄の業火が我が家を燃やしている。
ファルディアは何かを大きく叫びながら号泣していた。
業火は全てを焼き尽くす。
何もかも。壁も屋根も家具もそして人もだ。
頬をつたう涙が地についた膝を濡らしていた。
ファルディアは突然目が覚めた。
自分は泣いているのか?何故だ?ファルディアは夢を覚えてはいなかった。 というより大きな感情が全てを脳から排除する。プーカの野郎だ!プーカがファルディアの髭をライターで燃やしている。アチッ。
その言葉が終わるや否やファルディアは怒声をプーカに浴びせた。
「てめえ!何すんだ!アチーだろ!」
プーカは手の平を口に当ててくすくすと笑いながら言った。
「や~~っと起きた。 何してんだよー!」
その瞬間、 冷静になるファルディアであった。 何か、 ミスをしたのか?もしかして寝坊したか?と周囲を見回した。 暗い窓から入る月明かりに誠十郎の中学生としては幼い寝顔が浮かび上がる。
「まだ夜じゃねーか!何してんだよ。 じゃねーだろ。 寝てんだよ!」
ファルディアは怒鳴る。 その時、 誠十郎の目が開いた。 ファルディアの怒鳴り声が聞こえるはずはないのに、 タイミングが良さに驚いた。 プーカが突然リンボーダンスを始めた。 あっ。 とファルディアは気付いて
「誠十郎。 トイレに行きたいんじゃないか?」
と呟いた。 誠十郎は何やらゴソゴソと寝返りを打ちながら尿意を誤魔化そうとしているようだ。 が、 一向に尿意は無くならない。
ファルディアは仕事を始める。 眠いのに…面倒だとも思っていた。
「そこで小便しちゃえ!トイレに行くのは面倒だしな」
プーカは真面目な顔で言った。
「早くトイレに行きなさい。 漏らすと後が大変だぞ」
ファルディアは生きてた頃を思い出す。 寝てる時にはよくやったものだ。 どんなに寝返りを打っても尿意を忘れようとしても全然止まらないんだ。 結局、 小便に行くしかない。夜中に小便は暗くて怖いし面倒臭いし、 何よりも眠気が吹き飛んじゃって朝まで寝れなかったら大変だ。
と感傷に浸りながら考えた。 生きていた頃の子供の記憶は無いがなんとなく想像していた。
「え!!!」
プーカを見た初めてまともなことを言ったんじゃないか?今日はおそらく何か悪い事が起こるに違いない。ファルディアはそう確信した。誠十郎は一瞬、 行くのをやめて寝小便でも良いか。 と思ったがそれは嫌だ。誠十郎は仕方なくトイレへ向かった。
「おっ前。 初めてまともな事を言ったな」
ファルディアは驚いた表情から戻れなかった。プーカはその言葉に怒った。
「なにー!!俺はいつでもマトモだろう!」
ファルディア
ヤッパリこいつは気に食わんプーカの観察するかのような目つきが気になる。やはり、 何かを知っているのでは?ファルディアは睡魔に負けている最中にそう思った。
第10話に続く
第1話「天使プーカとの出会い」
https://kurokoda64213.com/archives/25744634.html
第2話「天使の夜道」
https://kurokoda64213.com/archives/25767152.html
第3話「スパイする天使」
https://kurokoda64213.com/archives/25768305.html
第4話「プーカの正体」
https://kurokoda64213.com/archives/25843251.html
第5話「逢引き」
https://kurokoda64213.com/archives/25855711.html
第6話「優しい誠十郎」
https://kurokoda64213.com/archives/25987840.html
第7話「スクールヴァルナの誠十郎」
https://kurokoda64213.com/archives/26043357.html
第8話「誠十郎、精一杯の切実」
https://kurokoda64213.com/archives/26206847.html
第10話「恋と誠」
https://kurokoda64213.com/archives/26302893.html
第11話「思考を抜けるとそこは雪国だった」
https://kurokoda64213.com/archives/26420719.html

コメント